バイシクルシュートへの対処法

ストライカーがバイシクルシュートを放とうとする予兆を察知したとき、マークするディフェンダーはどのように対処したか。

 

目の前のストライカーが体をひねって振り返った。ゴールに背中を向け、上空を流れて迫ってくるボールを目で追っている。

「バイシクルシュート」脳裏に浮かび体が反応した。「体を密着させろ!」

バイシクルシュートは、上半身を地面と平行に倒して足を高く突き上げて蹴ることで、ボールを前方へと飛ばす技術である。逆に言えば、上半身が地面と垂直のままだと、背後のゴール方向にボールを飛ばすことは難しい。(軟体人間のようによっぽど柔軟性があれば別だが・・・。)つまり、バイシクルシュートをしたいストライカーの体を、ディフェンダーがコントロールして地面と垂直に維持し続ければ、シュート自体が成立しない。

バイシクルシュートの狙いを察知した瞬間、ジャンプして倒れ込もうとするストライカーに対し、自分の胸部を相手の背中に密着させて姿勢を維持させる。空中に浮遊しようとして軽くなる相手の体重を感じながら、ゴールからボール方向へと強い圧力を素早く掛けた。高く振り上げられた右足は空を切り、その上半身は腹を滑り落ちて地面へと沈んだ。

 

体を張ってブロックをすることも大事だ。しかし、ゴールに近い側から見ると、ボールが一時的に相手の体の死角に入ってしまうので、現実的にはボールの飛ぶ方向を予測することはかなり難しい。それに頭を近づけて浮いたボールにアプローチしようとすると、相手の足が頭部に直撃する危険が生じる。勇気を持ち逃げないことも重要だが、選手生命をかけることはなるべく避けるべきだ。

「バイシクルシュート」脳裏に浮かんだが、まだ少し相手との距離があった。「上半身を倒させるな!」

すでに浮遊しているストライカーに対して素早く体を寄せ、相手を押すのではなく、下から背中を持ち上げた。相手はそれ以上体を倒すことができなくなりバランスを崩す。振り上げた左足に当たったボールは、高く跳ね上がってゴールラインを割って飛んで行く。あくまでも下から押し上げるように支えた上半身を、そっと地面に横たえた。両選手にとって重大事故を回避する最良の手段と映るので、ファールは取られなかった。