気分de迷著⑧

前章のマクロ的(古典的意味の)スペースに対して、ミクロ的(現代的意味の)スペースの存在が指摘される。それはディフェンダーのリーチが届かない場所であればどこでもスペースになり得る、と著者は言う。現代の速い展開のサッカーは、この狭いミクロ的スペースをいかに活用し、相手は逆にいかに消し去るかを競い合っている。攻撃はアイデアと技術でスペースを利用し、守備は相手のプレイスペースをとことん埋めていく。

守備においてフィールドプレイヤーのみならずキーパーまで含めて、全員でスペースを消そうと努める。フィールドプレイヤーはコンパクトにブロックを組んで密集することでミクロ的スペースを極限まで縮小し、キーパーはその背後に生まれる広大なオフサイドゾーンを一人でカバーすることが求められる。攻撃はその網をかいくぐり華麗に反転し、技の見せ所となる。

 

 

【スペースをカガクする②“スペース”を発見する】

 

繰り返しになるが、マクロ的スペースとは相手フォーメイションの空白部分とオフサイドゾーンである。これに対してミクロ的スペースについて考える。例えば守備の左サイドバックセンターバックボランチが形成する三角形の内側の面がスペースである。またはデイフェンダー2人のセンターバックボランチが形成する三角形の内側の面がスペースである。マクロ的スペースが守備のフォーメイションの空白部分であるのに対して、ミクロ的スペースとはプレイヤー同士の間の隙間を意味する。守備のプレイヤー3人のいずれのリーチも及ばない三角形の面が存在すれば、それが(現代的意味での)ミクロ的スペースである。

人数をかけて固く守備する相手に対してもミクロ的スペースが利用できれば、守備ブロックの内側へと容易にボールホルダーを侵入させることができる。近くの味方と連携してボールポゼッションすることで、守備ブロックの隙間をすり抜けて内部でプレーすることができる。これによって素早くサイドチェンジすることが可能となったり、崩しのパターンを多様化することが可能となる。サイドチェンジ一つとっても単にマクロ的スペースの利用に偏ると、最終ラインを毎回経由しての悠長なパスワークになったり、そうでなければロングボールを使った難易度の高いパスを選択しなければならなかったりする。多くの場合は味方同士で三角形を形成しそれぞれがディフェンダーの間間でボールを受けることで、守備のフォーメイションに関係なく、ボールホルダーが守備のブロックの内部でプレイし続けることができる。

ただしこの時与えられるスペースは限定的で瞬間的なものであるため、ボールホルダーは一定の技量を求められる。またボールホルダーの周囲の味方が、どれだけ素早く多くのパスコースを創れるかもカギになる。そこにスペースが存在するか否か、スペースが十分な広がりがあるか閉ざされているかは、攻撃と守備のプレイヤーの技量やフィジカルや俊敏性によって決まるのだ。