サッカーの基礎理論を書き終えて

長々と書いた文章を読んでいただいた方に申し上げるのは心苦しいが、本論考を御理解いただいてもサッカーが上手くなるわけではない。サッカーの上達には日々のトレイニングによる外ない。

この一連の文章は言わば、サッカーのプレイの取扱説明書であり、様々なシーンを一義的に理解し説明するための用語集のつもりである。サッカーの技術や戦術を語る上での、日本語に共通の言語的基盤を準備しようとする試みである。当初より懸案だった「守備」という言葉を発する者も、聞き取る者も、同じイメージを共有するための道具立てとなれば光栄である。

サッカーを好きになると皆一人前の戦術家となり、名(迷)監督となる。これはレベルに関係なく楽しめる頭脳戦である、サッカーというゲームの特徴を表している。どんなに稚拙であろうと、プロ並みに高度であろうと、それぞれのレベルで眼福を味わうことができるスポーツなのだ。1対1の狭い局面だけを観察して語ろうが、11対11のピッチ全体を俯瞰して語ろうが自由なのだ。楽しみ方にルールはない。

実際、見ている世界と見えている世界は、人それぞれかなり違う。自分の見えているイメージを共有するためには、その世界を描写するための言葉が必要である。ある程度定義された用語によって、サッカーのワンシーンを説明するために、予め用意された言語的基盤があると便利だと考えて本論考に取り掛かった。サッカーとは存在論であると捉える立場から、一人一人の存在論を組み立てる上で、役立つピースを提供できたら幸いである。