サッカーの基礎理論⑩

プレスは守備にあらず
 
プレスとは、パスコースを制限しながらボールホルダーのプレイスペースを狭めるプレイである。守備の担当エリアに留まりつつ侵入してくるボールホルダーに寄せるのとは違い、自分から積極的にアプローチして相手のプレイに制限をかける。(我々の仮定の下では相手のミスがない限り1対1でボールを奪うことはできない。)強いプレッシャーでボールホルダーのプレイスペースを極限まで狭めることに成功すれば、ボールホルダーを反転ないし後退させることができる。しかしプレスにはドリブルでかわされるリスクや背後のスペースを利用されるリスクが常に伴う。
プレスを戦術として集団で連携して行うことで、直近のリスクを回避できたり、効果的なプレッシャーをボールホルダーとその周囲のプレイやーに同時に与えられる。ボールホルダーの近くにいるプレイヤーから、順次連動してプレスをかけていくことで、相手チーム全体ないしディフェンスラインを押し下げたり、キーパーへのバックパスを強いてロングボールを蹴らざるを得ない状況を創り出せる。無理なロングパスはルーズボールとなりやすく、ターノーヴァーのチャンスとなる。
戦術としてのプレスの場合相手を押し下げることもあるが、逆に相手がリスクを取ってドリブルやパスで前進してくることもある。そのときはまたボールを奪い取るチャンスでもある。原理的な説明をすると以下のようになる。4-4-2のフォーメイションで向き合っているとして、ボールポゼッションするチームの左センターバックがまずボールホルダーとする。フォワード2人でそれぞれのセンターバックにアプローチすると、周囲のマークが完璧であると仮定すれば、スペースに陣取るフリーの左サイドバックにパスすることになる。フォワード2人はスライドして、それぞれ左サイドバックと左センターバックにアプローチする。このとき左サイドバックの選択肢はキーパーへのバックパスか左サイドハーフへのパスとなる。左サイドハーフはマークの付かれている状態だが、背後を向いて落ちてくればボールを受けられる。左サイドバックがリスクを取って前進することを選択すると、ボール奪取のチャンスとなる。このとき左サイドバックにアプローチした右フォワードは、バックパスのコースを消しながら左サイドハーフにアプローチする手段を得るからである。背後を向いてボールを受けた左サイドハーフに対して、左サイドバックへのパスコースを消しながらプレスバックできるのだ。
プレスを掛ける隠れたというよりは真の狙いは、プレスバックによってボールホルダーの背後のマーカーと挟み撃ちにしてボールを奪い取ることである。数的優位をプレスバックによって生み出すことができるのだ。実践的には、どこまでリスクを取ってプレッシャーを掛けに行くのか、背後に生まれるスペースをどれだけ管理できるか、これらが大切となる。