得点のケーススタディ④ゴールキックからのトリックプレイ

ゴールエリアの左コーナーからのゴールキックで、ゴールエリアの両脇に一人ずつディフェンダーを配置し、キーパーがショートパスしてリスタートするふりをする。キーパーが助走を取るためにボールから離れたのを合図に、左脇のディフェンダーがプレスキックしてリスタートした。パスの受け手は自陣の中間点でライン際のポジションに待ち構えた右サイドバックで、ボールを受けると内側から右サイドへと横にスライドしてくる前方の右ハーフに素早くパスした。右ハーフもボールを受けるとさらに前方へ横にスライドしてくるフォワードが走り込む広いスペースへとタテパスを出した。スピードに自信のあるフォワードはスペースに蹴り込まれたボールを拾うと、まっしぐらにタテへディフェンス最終ラインの突破を試みる。相手陣深くでもグラウンドの右サイドには広大なスペースが存在する。これはリスタートの時に左サイドに人数をかけて、後方からのショートパスによってビルドアップするように見せかけているためで、この効果として相手方は前線からプレスを掛けようと左サイドにポジションが偏り右サイドはオープンとなる。

ドリブルしながら最終ラインに到達したフォワードはキーパーとディフェンダーの間のゾーンへ目掛けてボールを流し込む。そこへもう一人のフォワードがオフサイドに気を付けながらタイミングを見計らって飛び込んで来た。鋭いグラウンダーのクロスボールが、ゴール前でキーパーと1対1でフリーになったフォワードの足元へと転がっていく。鮮やかな連携から生み出されたビッグチャンスに比べ、フィニッシュのワンタッチのシュートはあっけなかった。ボールはキーパーの脇をすり抜けてゴールネットを揺らした。

ゴールキックからパスをつないでシュートまで結びつけようとする大胆な発想、左サイドに全員を寄せておいてから右サイドのオープンなスペースを利用する綿密さ、リスタートの段階で相手をだまして先手を取る意外な仕掛け、すべてが完璧に機能した見事なトリックプレイだった。

ちなみにこのチームはこの虎の子の一点を守り切り試合に勝利した。言わば緻密な計算のもとに企図された劇的な番狂わせだった。