珍ルールの備忘録

ルールにはあるけれど、それが実際に適用されたのを見たことがないルールがある。そのルールの存在は知ってはいたけれども、現実にその状況が起こったことを見たことも聞いたこともないものがある。

それはスローインから直接ゴールインするケースである。(このルールが適用されるかなと思えるシーンを見た。)答えは以下のようだ。敵も味方も誰にも触らないでゴールインした場合、敵陣ならゴールキックで、自陣なら敵コーナーキックで再開となり、ゴールは認められない。ゴールの中とはいえ、単純にゴールラインを割ったのと同じこととみなされる。ゴールキックコーナーキックと違い、直接スローインでゴールが認められることはない。

ボールにメッセージとはこれ如何に

「ボールにメッセージのあるパスをY選手は出す」とよく言うけれど具体的にはどういうことか解説してみる。(まさかボールの表面にマジックペンでメモを書くわけではない。)

中盤で10数メートルの距離で、パスを通すだけの目的にしては必要以上に強いグラウンダーのパスがYから味方に蹴られた。パスの受け手はボールの勢いを殺すために慌てて体を開いて、左右の足の幅でトラップした。足元にボールを納めると、下を向いていた顔をまっすぐ上げて正面を見た。その視線の先にはフリーで待ち構えている味方がいた。Y選手の強すぎるボールは、パスを受けた選手の体の向きを変えさせるためにわざと出したものだった。「次のパスの受け手は正面にいる」とボールにメッセージが書かれていた。

1対1の同点に追いつかれた直後、勝ち越し点をなるべく早く奪い返そうとはやるところ、Y選手の足元にボールが納まり近くの味方が勢いよく前線へ駆け出した。Y選手はフリーで駆け上がるその味方に、ちびっこが蹴ったようなコロコロと転がる弱々しいボールのパスを蹴った。走り出していた選手は一向に到達しないボールに、振り返ってY選手を見ると、「落ち着け」とジェスチャーで訴えていた。ゲームの流れを読んだとき、勝負所は今ではなく、「まずはディフェンスの立て直しが先決である」と教えるためのパスだった。

S選手はパスの受け手が次に行いたいプレイを見越した上で、当然右利き左利きに合わせてもっとも扱いやすいボールをいつも出す。だからパスの受け手は来たボールを素直にトラップすれば、次のプレイにスムーズに移れる。パスの受け手がやろうとしたことを「それでいいんだ」と後押しするようなボールをY選手は供給する。

メッセージのあるパスとは、次に行うべきプレイのために最適なボールを送ることで、その指示を伝えることを可能にする。また正確なパスを蹴る技術があることを前提として、そこで違和感のあるボールをわざと出すことで、次のプレイのヒントや答えをメッセージとして潜ませることもできるのだ。これらがメッセージのあるパスの正体である。

センターリング

最近ではあまり聞かなくなった単語の一つだが、ここではあえてセンターリングを使用する。センターリングはサイドアタックによってディフェンスラインを押し下げ、ゴール付近に侵入可能となったストライカーへ外から中へ・サイドからセンターへパスを送ってシュートを目指す作戦である。今まで書いてきたことと重複する部分があるけど改めて考えを書いてみる。

ちなみに史上最高のセンターリングは、’94年ワールドカップアメリカの準決勝、ブラジルvsスウェーデンジョルジーニョが蹴ったパスだ。彼が右サイドから放ったボールは背の高いスウェーデンの森のようなディフェンダー陣の頭の上を越えて進み、ファーサイドに到達した途端弧を描いてカーブしながら落ちていった。木々の茂みの影に隠れるように沈んだボールは、次の瞬間にはゴールネットに突き刺さっていた。ファーサイドの多くのディフェンダーの隙間に飛び込んできたのはロマーリオだった。後でビデオリプレイを見て分かるのだが、ほとんど見つけ出すのも難しいゴール前の密集の中で、決して高身長とは言えないフォワードにピンポイントで合わせていた。彼以外誰も蹴れないような軌道を通ってカーブするボールは、まるで魔法にでもかかっているようだった。磁力によって吸い寄せられるようにフォワードの額に向かうボールに、センタリングを見て初めて震えた。

ディフェンダーには触れなく、ストライカーにだけ触れる魔球が蹴れれば簡単な話だが、実際に真似することは至難の業だろう。真似は無理でも練習はできる。練習して感覚を研ぎ澄ますことは大事だろう。

魔法のセンターリングはさておき、昨今のトレンドとしてキーパーとディフェンスラインの間と、ディフェンスラインが下がった後にペナルティースポット付近で合わせるという2パターンがある。深海と浅瀬である。サイドアタックで相対するディフェンダーを交わし、抜き切らないでもタイミング良く深海へとボールを流し込む。ディフェンスラインを見極めながらストライカーが体ごとゴール方向へ突っ込んでいく、よくある得点のパターンである。その裏パターンとして浅瀬のマイナスと平行の2ヴァージョンがある。ディフェンスラインを一気に引いて守ろうとする相手に対し、ストライカーはタイミングをずらして攻め残りあるいはニアに突っ込むフェイクを入れてペナルティースポットの高さに戻ることでフリーの状態を創り出す。そしてサイドのアタッカーは時間を創るためえぐっていければ、センターリングのボールはマイナスに、そうできなければタテに行くフェイクを入れて平行にパスして(多くの場合ノールックで)相手のマークをかく乱する。

この深海と浅瀬の攻撃の組み合わせは強烈で、実践においてディフェンダーが対処することは難しい。どちらかに山を張ると、外れた時に後手に回ることになる。深海で合わせるか浅瀬で合わせるかサイン・合図で中と外が意思疎通できるようにしておくとよい。バレバレの掛け声でも、ディフェンダーが対応するのはなかなか厳しい。ゴール近くで相手の裏をかければ即得点につながる。結局中の動きが肝なのだが、前か後ろかどちらかにディフェンダーをだまして動かしてしまえば、センターリングのパスが通る確率も上がる。動き出しが肝心なのだ。

パスの球種としてグラウンダーやカーブ・スライダー・ストレイト・シュートの浮き球、色々選択の余地があるが、ヘディング・ボレーシュートのし易さを考慮すれば、素直な回転のアウトスィングのカーブボールが最適だろう。安定した軌道のボールはストライカーにとっても扱いやすいはずだ。ついでに言及しておけば、センターリングは上げられるけどストライカーとは合わないでディフェンダーにはじき返され続けるとき、球種を変えてみるのは一計である。的となるストライカーは同じでもボールの起動を変えてやると、ディフェンダーの目先を変えることになり、多少は混乱するかもしれない。

Defense≠Pressと守備≠球奪取

今週のお題「マイ流行語」

 

一年前から日本サッカー界で流行らせようと考えてキャンペーンをしています。私のブログで繰り返し展開しているテーマなのですが、「守備はボール奪取することではない」ということです。サッカーにおいて、守備は守備、戦術的ボール奪取はプレスと区別するべきなのです(詳細は『サッカーの基礎理論』を参照)。日本サッカー改造論というほど大げさな事ではないのですが、三十年以上前から続いてきた誤解ですので、そろそろ「守備」という言葉の意味を再考し、その両義性を排除するべきだと考えています。守備におけるボール争奪戦とプレスにおけるそれとは、似て非なるものです。一方がゴールを守ることを目的にしているのに対し、他方は攻撃への転換を目指しているからです。

#Defense≠Press

#守備≠球奪取

ご理解いただける方がいらっしゃったら、ご賛同とご拡散をお願いします。

守備を巡る物語

ある日の試合で、丁君と乙君と甲君が守備をした。

丁君がボールへの強い執着心を見せ、持ち前の集中力と反射神経の良さを発揮して相手のボールを見事に奪った。

皆が言った。

「ボールを奪い取る丁君の守備は素晴らしい」

しかしコーチは言った。

「ボールを奪取したのは手柄だけど、丁君は守備をしていなかったよ」

続いて乙君がボールホルダーにアプローチした。体を斜に構えて背後の味方と協力し合うように、相手との距離を詰めていった。ボールホルダーは上手いフェイントを見せ、丁君はドリブルで抜かれてしまった。しかしカバーに回った味方が素早くボールに寄せ切りボール奪取に成功した。

皆が言った。

「乙君は守備が下手だからドリブルで抜かれてしまったんだ」

しかしコーチは言った。

「乙君はちゃんと守備をできていたよ。だからこそ味方がボールを奪えたんだ」

次は甲君がボールホルダーにアプローチする番だった。カバーする味方にポジションを指示しながら、ボールに働きかけるというよりは、ドリブラーを誘導しているようだった。目指す先には甲君とカバーする味方との挟み撃ちのわなを仕掛けて、そこへ相手を追い込んでいった。一方向のドリブルコースを空けて誘導し、徐々にボールとの距離を縮めていく。二人の向かう先から味方が寄せて来る。挟み撃ちに気づいた相手は慌てて切り返したが、甲君はそれを予め読んでいた。素早く反応して相手とボールの間に自分の体をねじ込みボールを奪い去った」

皆が言った。

「甲君はさすがだ。味方をおとりにして自力でボールを奪い取った」

しかしコーチは言った。

「甲君のは皇帝の守備だ。自分の背後にいる味方をも支配して、守備陣の全体で一つのボールに対応していた。時間が経てば経つほどボールホルダーが数的不利に陥る状況を創り出していた。そうやって相手が早く勝負せざるを得ないように、目前の一対一のボールホルダーを急かしていた。距離を詰めてプレッシャーを掛けることも大事だが、守備の側が持っている有利な点を利用して、さらにその差を広げて安全にかつ大胆にボールを奪いに行くチャンスを生み出すこともできるのだ」

試合が終わって皆がコーチに聞いた。

「守備とはいったい何をすることでしょうか」

コーチがそれに答えて言った。

「丁君がやっていることはプレスだ。身体能力などの差があればボールを奪取できることもあるだろうが、そうでなければ抜かれるときもボール奪取できるときもどちらも偶然の出来事だ。勇気をもってプレスをかけることももちろん大事だけれど、それは守備ではない。

乙君は抜かれはしたけれども守備はできていた。丁君がボールを挟んでの相手と自分とのわずか数メートルの空間の出来事として完結しているのに対し、乙君は相手とさらに自分の背後に広がる世界の存在を感じながらプレイしていた。つまり守備をするということは、自分の背後にある世界に存在するゴールを守ることが本来の目的なのだ。自分の目の前にある空間は、自分の背後にある世界と一体のものとして捉えなければ守備ではない。極端な例で言えば、キーパーが気絶して倒れているときと、しっかり構えているときとプレイが同じはずがない。

甲君の守備は自分の背後の世界を意識しているだけでなく、そこの征服者たろうとする。最適で有機的な守備組織を構築して、ボールホルダーを挟み込むわなを仕掛ける。またはわなの存在をボールホルダーににおわせることで、より難しいプレイ選択を相手に強いる。味方との連携を図りながら、一対一のボール争奪戦を有利な状態へと作り替えていく。相手の選択の幅を狭めていきながら、なおかつ確実にボール奪取できる方策を甲君は打っていたのだ。相手は苦し紛れのバックパスに逃げるくらいしかできない状況に追い込んでいた。

ゲームの目まぐるしい展開の中で、近くの味方とシンプルに連携を高める。これはわずか数秒の出来事だが、体の向き・姿勢・視線は皇帝そのもので、また周囲の味方も有能であればこそ守備の戦力として機能するのだ」

 

皆は物語世界の広がりに驚いたとさ。

 

丁君の『球取物語』、乙君の『威勢物語』、甲君の『光君物語』、蓼食う虫は好き好きだけれども、物語の発展史的観点からすれば秀逸なのは甲君のものに思える。

 

 

絶対領域以上犯罪領域未満の際の際④削ル

魑魅魍魎跋扈する。

 

蟹挟/Killer Sliding Tackle/踵踏ミ/踏付ケ/Toe Kick/momokan/

Flying Scissor Takedown/谷落/ガブリ寄リ/Hip Attack/Elbow/突キ/Punch/

肘鉄/Karate Chop/Karate Kick/Lariat/喉輪/体当タリ/吊リ落トシ/Delayed Tackle

 

吠エル/叫ブ/喚ク/威嚇ス/罵ル/罵詈雑言ヲ吐ク/悪口ヲ言ウ/嘲ル/野次ル/

貶ス/蔑ム/ボヤク/嘲笑ス/爆笑ス/睨ム/短パン狩リ

 

望ましくない険しい試合にて、疾風に勁草を知る。

パスを受ける

ずぶのずぶの素人に向けてパスを受けられる仕組みについて説明する。これは本来言葉で表すようなことではなく、「習うより慣れろ」の次元のことであるが、サッカー未経験の人のためにあえてしてみる。

なぜ動き続ける受け手にボールをパスすることができるのか。広いピッチの上で必ずしも一定でない速度・方向・コースで移動する味方へ、どうやってパスを通すのか。出し手と受け手の意思疎通はいかに可能となるのか。止まっている味方の足元へのパスであれば理屈は簡単である。足に目掛けてボールをぶつければよいだけである。しかし動き回る受け手が1秒後2秒後になぜある一地点を通過することが分かり、そこでボールを受けてさらに別の場所に運ぶことを予見できるのか。これらのことは一見するだけでは分からないかもしれない。ゲームの目まぐるしい流れの中で、パスの出し手と受け手がお互いの考えを理解し、息を合わせてパスを通すにはどのような手続きが行われているのか不思議に思われるかもしれない。まさか何時何分北緯何度東経何度と事前に打ち合わせできるわけではない。

例えば3メートル先にボールを出してほしいと口で伝えることはできるし、それを指先で指し示すこともできる、実際にそうすることはよくある。しかしそういう具体的な指示がなくてもパスが通ることもよくある。またこの場合、ボールが欲しい位置は伝えられるがそのタイミングは伝わらない。多くのプレイヤーが走り回る中で、正確に何秒後に指示した場所に到達すると自分でも簡単に把握できるものではない。ではどうやってパスを受ける場所と時間を、二人のプレイヤーが共有することができるのか。

まずイニシアチブをとるのは実は受け手の方なのだ。これを意外に感じられるかもしれないが、パスの受け手が出し手にボールを要求しているのだ。愛犬が飼い主の投げたボールを拾いに行くように、出し手が蹴ったボールに反応しているわけではない。そういうことも全くない訳ではないが、スムーズなパスの交換が行われる場合、次にプレイをする受け手の側がイニシアチブをとる方が合理的なのだ。

受け手が出し手にパスを要求する。言葉や身振りが伴うこともあれば、そうでないこともある。動きながらボールを受けるとき大事なことは動き出すことだ。つまり動き出す方向と速度によって、1秒後2秒後に通過し得るポイントを出し手に伝えるのだ。受け手がボールを受けたい位置へ目指して移動し始めることで、それを察知した出し手は受け手の通過地点とパスの通過可能なコースの交差点を探索する。そこにはおそらくスペースが存在して、パスを受けた後にプレイできるはずの場所があるはずだ。出し手はそのスペースを見つけ、タイミングを計りそこへボールを配給する。移動は必ずしも直線的とは限らなく、蛇行しても構わない。上手くいけば、出し手は受け手とアイコンタクトして狙いのスペースにタイミングよく蹴り込む。

動きながらボールを受けるメリットは、ディフェンスにパスの的を絞り難くすることだ。立ち止まったままボールを受けようとするとパスコースを読まれ、ディフェンダーにパスカットを狙われ易くなる。ディフェンダーに前へ出られて受け手が影に隠されてしまうと、パスコースは限定され、的は小さくなってしまう。動きながらであれば完全にパスコースを消されることはまずない。またオープンスペース(デイフェンダーがその先にはいない地域)であれば、ミドルないしロングパスの際多少狙いとはずれたとしても、受け手が走る速度を調整したり走るコースを湾曲させたりしてパスに合わせる余地が発生する。

パスは犬のボール遊びではない。受け手が主体的に始動して自分の次のプレイエリアを指し示す。そしてルックアップ(顔を上げて周囲を見回す)したボールホルダーがそれに反応してボールを送る。パスコースはグラウンダーかディフェンダーの頭越しかいくらか考えられるが、最適な手段を発見し持てる技術を発揮して蹴り込むのが出し手の役割だ。ドリブルをしながらでも顔を上げて、味方の動き出しを細大漏らさず見逃さない。受け手の突然の要求にも即応できるのが良いパサーであって、自分が次にするプレイスペースを発見して逸早く走り出せるのが良い受け手なのだ。