センターリング

最近ではあまり聞かなくなった単語の一つだが、ここではあえてセンターリングを使用する。センターリングはサイドアタックによってディフェンスラインを押し下げ、ゴール付近に侵入可能となったストライカーへ外から中へ・サイドからセンターへパスを送ってシュートを目指す作戦である。今まで書いてきたことと重複する部分があるけど改めて考えを書いてみる。

ちなみに史上最高のセンターリングは、’94年ワールドカップアメリカの準決勝、ブラジルvsスウェーデンジョルジーニョが蹴ったパスだ。彼が右サイドから放ったボールは背の高いスウェーデンの森のようなディフェンダー陣の頭の上を越えて進み、ファーサイドに到達した途端弧を描いてカーブしながら落ちていった。木々の茂みの影に隠れるように沈んだボールは、次の瞬間にはゴールネットに突き刺さっていた。ファーサイドの多くのディフェンダーの隙間に飛び込んできたのはロマーリオだった。後でビデオリプレイを見て分かるのだが、ほとんど見つけ出すのも難しいゴール前の密集の中で、決して高身長とは言えないフォワードにピンポイントで合わせていた。彼以外誰も蹴れないような軌道を通ってカーブするボールは、まるで魔法にでもかかっているようだった。磁力によって吸い寄せられるようにフォワードの額に向かうボールに、センタリングを見て初めて震えた。

ディフェンダーには触れなく、ストライカーにだけ触れる魔球が蹴れれば簡単な話だが、実際に真似することは至難の業だろう。真似は無理でも練習はできる。練習して感覚を研ぎ澄ますことは大事だろう。

魔法のセンターリングはさておき、昨今のトレンドとしてキーパーとディフェンスラインの間と、ディフェンスラインが下がった後にペナルティースポット付近で合わせるという2パターンがある。深海と浅瀬である。サイドアタックで相対するディフェンダーを交わし、抜き切らないでもタイミング良く深海へとボールを流し込む。ディフェンスラインを見極めながらストライカーが体ごとゴール方向へ突っ込んでいく、よくある得点のパターンである。その裏パターンとして浅瀬のマイナスと平行の2ヴァージョンがある。ディフェンスラインを一気に引いて守ろうとする相手に対し、ストライカーはタイミングをずらして攻め残りあるいはニアに突っ込むフェイクを入れてペナルティースポットの高さに戻ることでフリーの状態を創り出す。そしてサイドのアタッカーは時間を創るためえぐっていければ、センターリングのボールはマイナスに、そうできなければタテに行くフェイクを入れて平行にパスして(多くの場合ノールックで)相手のマークをかく乱する。

この深海と浅瀬の攻撃の組み合わせは強烈で、実践においてディフェンダーが対処することは難しい。どちらかに山を張ると、外れた時に後手に回ることになる。深海で合わせるか浅瀬で合わせるかサイン・合図で中と外が意思疎通できるようにしておくとよい。バレバレの掛け声でも、ディフェンダーが対応するのはなかなか厳しい。ゴール近くで相手の裏をかければ即得点につながる。結局中の動きが肝なのだが、前か後ろかどちらかにディフェンダーをだまして動かしてしまえば、センターリングのパスが通る確率も上がる。動き出しが肝心なのだ。

パスの球種としてグラウンダーやカーブ・スライダー・ストレイト・シュートの浮き球、色々選択の余地があるが、ヘディング・ボレーシュートのし易さを考慮すれば、素直な回転のアウトスィングのカーブボールが最適だろう。安定した軌道のボールはストライカーにとっても扱いやすいはずだ。ついでに言及しておけば、センターリングは上げられるけどストライカーとは合わないでディフェンダーにはじき返され続けるとき、球種を変えてみるのは一計である。的となるストライカーは同じでもボールの起動を変えてやると、ディフェンダーの目先を変えることになり、多少は混乱するかもしれない。