パワープレイ便り

昔、西ドイツがゲームの終盤に、大型のプレイヤーを前線で駆使しながらロングボールを配給し、ゴール前での空中戦に持ち込む。狭いエリアでの激しい肉弾戦は数々の逆転劇を生み、その諦めの悪さをゲルマン魂と称賛されていた。細かい規則性によってというよりは、タテの推進力を追求してゴールへ気迫で襲い掛かる。トップの高さを活かして、ゴール前で混戦を生み出し、ボールを全身でゴールへとねじ込む。

また北朝鮮の伝統的スタイルもパワープレイといえる。前を向いてボールを持てるときは、全ポジションのプレイヤーが迷わず先頭のフォワードにボールを当て、この鉄則がシンプルで一貫しているので、チーム全体がそれぞれやるべきことを理解できる。トップへのボールが入るタイミングも全体で共有でき、味方がトップをフォローしやすくなる。やることがバレバレだからディフェンダーは対処し易いが、早いポジティヴ・トランジッション(ボール奪取からの攻撃への転換)をすることで対応をより難しくすることができる。さらにやるべきことが決まっているのだから、それに適した人材をチームに予め招集できるのも利点なんだろう。

パワープレイが効果を発揮するのは何といってもゴール前に押し込んだときなんだ。たいてい大型のフォワードを前線に配置するので、広大なウラのスペースを鋭く突くというよりは、ディフェンスラインを深く押し込んで、窮屈な状態での空中戦を相手に強いる方が効果的だ。ディフェンダーからすると、ヘディングの競り合いは広いグラウンドの中ほどの方が有利で、ゴールに近づくほど不利になる。これは線上で勝負するか、点でするかの差で、助走を使えてジャンプするかスタンディングかの違いにもつながる。ボールをコントロールしたいフォワードと自分の前方へと跳ね返したいディフェンダーとの戦いのとき、線上で競うか点でするかは雲泥の差となり、駆け引きで触らないという選択肢もあるのが線上で戦う場合だ。

パワープレイを仕掛けてくる相手に対しては、できるだけ前線からプレスをかけ続け、オフサイドラインを高く保つようにしなければならない。長めの線上での競り合いであれば、ヘディングの高い打点にあまり意味がなくなるので、身長差はかなり相殺される。後はボールの落下地点でのポジション争いとなるが、単に押し合いつかみ合いであれば体格の大きい方が有利かもしれないが、前後の揺さぶりをかけながら一瞬だけ前に飛び出したり、またはトラップのタイミングを狙って体当たりもできる。さらに予め味方がパスコースを塞いだうえで、トラップした相手を挟み撃ちすることもできる。結局最もまずいのは、ヘディングの高さ勝負で負けてしまうとピンチを招いてしまうような状況を作ってしまうことなんだ。

少し先回りして言及してまったが、パワープレイのロングパスに対処する最も理想的な方法は点でも線でもなく面で守備をすること。一度ロングボールが放たれたなら、相手のトップの前に立ちはだかりパスを阻止しようとする。それがだめならトラップのタイミングにボールコントロールを妨害しながら体をぶつける。ボール奪取はできなくとも、絶対に前に向かせないで味方のプレスバックを待つ。ロングパスの的は明確なので、センターバックボランチで逸早くサンドできるように準備しておく。

ディフェンスするうえで最も大切なことは、前線からのプレスによってできる限り相手の攻撃の機会を減らすこと。ロングパスを蹴られたとしても線や面で対処して、なるべく早くボールを回収すること。トップの落とし(バックパス)が成功したときはディフェンスライン下げるのでなく上げる。できればバックパスでボールが移動した距離と同じくらいラインを上げるのがベスト。これはバックパスの次にプレイする相手のプレイヤーが前向きなのが見えるので、ウラのスペースを使われる恐怖で後退りしてしまうのだけど、オフサイドラインが下がれば中盤はその分間延びしボールホルダーへのプレスがかかりにくくなってしまう。だから点での高さ勝負を避けるためには、勇気をもって少しでもラインを上げなければならない。この時落としたトップをオフサイドゾーンの内側へ置き去りにしたいので、素早くラインコントロールするべきだね。

高さでもスピードでも勝負できないのであれば、相手のパワープレイを防ぐことはできない。点での勝負を避けることを前提にするなら、オフサイドラインは上げてスピード勝負を受けて立つことになる。パワープレイはターノーヴァーが起こりやすく決して効率の良い戦術ではない。なぜなら前方へとボールにアプローチできるディフェンダーに対し、背後から来るボールを処理して逆のゴール方向を目指すフォワードが競り合いで勝たなければ攻撃が成立しにくいのだから。だけどゴールへと近づくための確実な手段であり、カウンター攻撃の危険が極めて低い戦術でもある。これに対処するとき高さ勝負で負けなければそれはそれで済むのだけど、そうでないときの次善策として面で守備する準備をするべきなんだ。

それでも攻撃側はパワープレイの途中にたまにはウラを狙ってみたり、パスを受けようと落ちてきてセンターバックをつり出そうとしたりする。だからサッカーは複雑なんだ。